転生人魚姫はごはんが食べたい!
 旦那様の家庭事情を知ってから、私たちの距離は少し縮まったように思う。
 あれから旦那様の多忙ぶりにも一段落がついたのか、食事は一緒に食べられるようにもなった。その事実を素直に喜べるくらいには、私にとって旦那様と過ごす時間は楽しいものだった。
 けれど私、エスティーナには未だ解決していない深刻な悩みが残されている。それは……

「文字が読めないっ!」

 人魚姫だった頃は全く不自由しなかったわけで、そもそも気づきもしなかったけれど、この世界の言語は日本語とは異なる。当然、文字の表記も違う。早急に学習する必要を迫られていた。

 このままだとメニューも読めないわ! 自分の注文は自分でしたいじゃない!

「文字の練習……つまり外国語の勉強なんて学生以来ね。こういう時は、スペルを憶えることから始めればいいのかしら?」

 果たしてこの世界に言語学習の教材があるのか。たとえあったとしても手に入れることが出来るのか。そして独学でなんとかなるものなのか。考えることは多い。

「いっそ誰かに教えてもらえたらいいわね」

 そんなことを考えながらお城の中を歩き回っていた時のこと。

 どうして城内を歩き回っているのか? いざという時に迷子になったなんて恥ずかしからよ!
 同じような景色ばかりで本当に迷子になりそう……っと、そうじゃないわ。今は文字の勉強についてよね。例えばこの城の見取り図を渡されたって、文字が読めなければ解読出来ないもの。

 そんな願望を抱いていたから? 目の前には一冊の本が落ちていた。

「願望が具現化した……」
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