転生人魚姫はごはんが食べたい!
「お、お屋敷ですもの。ご、ご家族がいるのでしょう?」

「伯爵様は奥様に先立たれ、現在は一人でお屋敷に暮らしているそうです。使用人以外に女性はいません。でも、彼女が聞いたのは確かに女性の声なんです」

「ほ、他にも、働いている女性はいるでしょう?」

「突然の嵐だっていうのにのんびり歌っているメイドがいますか!?」

 話はわかったけれど、いちいち目を見開いて迫らなくてもいいんじゃない!?

「という話を聞かされたので、奥様に何かあったらと、つい不安になってしまったんです。でも、その子しか憶えがないみたいなので、気のせいだったのかもしれませんよね! すみません、出かける前に変な話をしてしまって」

「い、いいえ……」

 ニナがいつもの調子で笑顔を見せてくれる。でも私の笑顔は引きつっていた。

「なかなか、興味深い話……だったわ」

 強がってみたけどっ! 私、この手の話って苦手なのよね……お化け屋敷とか、怖くて一度も入らないまま生涯を終えてきたもの。もちろん後悔はしていないわ。友達には怖くなーい、怖くなーいと言われたけれど、頑なに拒否し続けた。今もあの判断を間違いだったと思ったことはない。
 それにしてもニナったら、友達から聞いた話というのは本当だとして。随分と脚色が混ざっていない?

「ニナって、随分と語り上手なのね」

「そうですか? 妹や弟に話て聞かせることは多かったですけど……」

「とても感情がこもっていたわ」

「本当ですか!? 奥様にそう言ってもらえるなんて嬉しいです! 私、一生懸命練習したので!」

「練習……」

「仕事仲間たちの間で時々怖い話大会をするんですけど、みんながあまりにも私の話は怖くないって馬鹿にするので、頑張って練習したんです。一位になると賞品があって、その日の仕事量が少し減ったりするんですよ。あ、もちろんイデットさん公認です! それでその、最下位の子が肩代わりさせられるんですけど、私はいつも仕事を任されてばかりいて……」

「それは、大変だったわね」

「もうニナの話は怖くないなんて言わせません。そうだ! 定期的に開催していますから、次は奥様も一緒に参加しませんか? 異国の怖い話、ぜひ聞いてみたいです」

 持ちネタなんてないわよ!? ま、まあ、私だって、幽霊を怖がるような歳じゃあないんだから…… 

 私は辛うじて考えておくと返答しておいた。この話がこのままうやむやになってくれることを願って。
< 92 / 132 >

この作品をシェア

pagetop