転生人魚姫はごはんが食べたい!
 まだ明るい時間だけれど、伯爵の屋敷までは馬車で時間が掛かるらしい。私たちは余裕を持っての出発を心掛けるそうだ。

「旦那様、本日は素敵なドレスをありがとうございます」

 待ち構えていた旦那様に感謝を込めてお辞儀する。

「喜んでもらえて嬉しいぜ。お前に似合うと思った俺の見立ては正しかったな。良く似合ってる」

「ありがとうございます。でも私には少し、もったいないほどの衣装ですわね」

 布を重ねることで重量を増したドレスを着るなんて、もちろん初めてのことだ。私には勿体ないとさえ感じてしまう。

「んなことねーよ。お前はあんまり自覚していないようだが、これでも王子だからな。そしてお前は俺の妻だ。言っとくが、これでも控えめな方だぞ」

 そうでした……私、王子様の妻なんでした。

「おい本気で驚いていないか?」

「そんなことは……」

 声に出してはいないはずなのに、そんなに顔に出ていたのかしら……。
 もちろん覚えていますわ。私、凄い人の妻になってしまったのねって。ただ旦那様があまりにも気さくで、もっと言うのなら旦那様の周囲も気さくで。本人の日頃の態度や、旦那様を王子様として扱う人がまわりにいないことも忘れてしまう原因だと思うのよ。

 ただし今目の前にいる人は、正真正銘王子様という身分に相応しい格好をしていた。

「旦那様も良くお似合いですわ」

「ありがとな。お前の隣に立たせてもらうんだ。半端な格好じゃ釣り合わないだろ」

 気合いが十分でいらっしゃる! でもそれ私の台詞ですから、取らないで下さい!

「さあて、せっかくもらった奥さんを見せびらかしに行くとするか」

 欲望に忠実でいらっしゃる!

「ところで旦那様。少し腕を借りしても?」

 私はぷるぷると震える足で進み旦那様の腕にしがみついた。旦那様の腕はさすが男性、私の腕とはまるで違う。有り難いことに力強くて、頼りがいを感じさせるものだった。すらりと立ちつくす旦那様のなんと凛々しいことでしょう。それに比べて私は……

「ハイヒールを履く特訓もしておくべきでしたわ!」
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