転生人魚姫はごはんが食べたい!
 こんなに高くて細いヒールが世の中に存在するというの!? きっと前世にも存在はしていたのでしょうけれど、私とは無縁だったのです。

「抱えて運んでやろうか?」

「謹んで遠慮申し上げますわ」

 淡々とお断りさせていただきました。旦那様にとっても冗談だったのか、すんなりと引き下がってくれる。

「なら、会場に着くまで特訓だな。しっかり掴まってろよ」

 ああっ、私ってば情けない! ということは、世のご婦人たちはこのヒールで華麗に踊るのでしょう? 私、本当に踊れる日が来るのかしら……

 そんな風に弱気になっていた私だけれど、隣で嬉しそうに笑う旦那様の姿を目にしてしまったらもう弱音は吐けなかった。

「妻に頼られるってのも悪くないよな」

 たとえ習得までが道のりが険しくても私はめげない。諦めない!
 でもまずは、一刻も早く独り立ち出来るよう、気合を入れて歩き出すことから始めよう。


 馬車に揺られること数時間。私たちは伯爵の屋敷に到着する。貴族社会で目にするもののすべてが初めてとなる私にとって、伯爵邸というのは圧倒されるものだった。
 旦那様のお城も含め、どうして貴族のお屋敷はこうも揃って広いのか。掃除が大変だとは思わないのだろうか。仮にこの屋敷に人魚がいたとしても探す出すのは困難だ。

 まずは伯爵様とお近づきになることから始めるべきかしら?

 美術品に宝石だとか、ましてや絵画にもまったく興味はないけれど、それらしく振る舞ってみせましょう。
 思案に耽る私の手を握ってくれるのは旦那様で、叶うことならまだその手を離したくはない。

「おっ、歩く姿も様になってきたじゃないか」

「素敵な旦那様の隣に立たせていただくのですから、自然と背筋も伸びるというものですわ。ところで、旦那様」

 見上げたお屋敷は夜のせいか少し悲し気に映る。というか不気味に見える。賑やかな会場からは眩しいほどの灯りが漏れているが、灯りの消えた部屋はいくつもあるのだ。

 まさか本当に、出たりしないわよね?
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