転生人魚姫はごはんが食べたい!
「どうした?」

 不安から、私の腕を握る力は強くなっていたらしい。

「参考までにお聞きしたいのですが、喧嘩は強い方ですか?」

 突然の質問に驚きながらも旦那様は真面目に考え込んでくれる。

「そこそこじゃないか? 少なくともエリクよりは強いと思うぜ。昔エリクと握手した時の話なんだが、あいつが手に力を入れてきてな。少しやり返してやったら、この馬鹿力! 僕の手が砕けたらどうしてくれるのと理不尽に怒られた」

「エリクらしいですね」

「だろ? まあたとえ喧嘩に弱かったとしてもだ。大事な奥さんはしっかり守るから安心しとけ」

「旦那様っ……!」

 これほど旦那様に感動したのは初めてかもしれない。幽霊相手に腕力が役に立つかは別として。

「私を一人にしないで下さいね!」

「そりゃいい誘い文句だが、俺がそばにいると伯爵が遠慮するかもしれないぜ」

「遠慮、ですか?」

「そっ。伯爵はな、とにかく話が長い。大抵はコレクションの自慢だが、さすがに長い話は相手を選ぶ。俺はどうせ話しても興味がないって諦められてるからな。お前はとにかく同意しまくって伯爵に心を開かせろ。そして相手の懐に入りこめ!」

 旦那様からの無茶ぶりにしっかりと頷き、私は初めての夜会へと足を踏み入れる。
 私の不安を他所に、屋敷に入った瞬間から私たちは手厚い歓迎を受けていた。急ぎ足でこちらへと向かって来る男性が主催者だろう。

「ラージェス様、ようこそお越し下さいました。お忙しいところ足を運んでいただき、光栄にございます。どうか今宵は存分にお楽しみいただけますよう」

 見た感じには好意的な態度だ。楽しげに談笑し、旦那様も笑顔で答えている。でもこの人は旦那様が人魚を保護することに否定的なのだという。

「ところでラージェス様。そちらの美しい方が?」

 視線を向けられた私は自ら名乗りを上げた。

「初めまして。妻のエスティーナと申します。このたびはお招きありがとうございます」

「これはエスティーナ様、貴女のようなお美しい方とお会い出来ましたこと嬉しく思います。聞くところによるとエスティーナ様は大層目が肥えていらっしゃるのだとか。ぜひこれまで目にされた品についての話を伺いたいものですな」

 初対面の私にも変わらない笑顔。でも少し、過剰ににこにこしすぎている気もするけれど。
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