幻惑
「それから俺達、二人で会うようになったでしょう。結花里、いつも俺を思いやって、心配してくれて。俺、そんな風に 誰かに大切にされたことないから。結花里に夢中になっちゃったんだ。」


翼はそっと、額を重ねる。
 

「最初、翼君が結婚しているって知らなかったでしょう。聞いた時、すごく迷ったの。でも、もう自分を止められなくて。」


私が言うと 啄むように唇を合わせて、翼は続ける。


「俺も最初は、結花里がこんなにお嬢様だったって知らなかったけど。結花里から滲む育ちの良さみたいなものに、すごく惹かれたんだ。」


翼が言葉を切ると、私から翼の唇に触れた。
 

「優しくて、思いやりがあって。礼儀をわきまえていて。俺、結花里と一緒にいると、自分も心が豊かになるような気がしたよ。」


翼の言葉に、私の胸は熱くなる。
 

「そんな。翼君、買い被っていたわ。翼君こそ、いつも穏やかで。不機嫌な顔をしなくて。私、救われていたのよ。」


甘く唇を合わせながら、私は言う。
 

「それは結花里だからだよ。一緒に住んでいた時も、いつも結花里 俺の為に色々やってくれたでしょう。俺、ずっと一人で生きていたから。そういうことが本当に嬉しかったんだ。」


翼は言いながら、私の頭を抱く。
 

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