白雪姫に極甘な毒リンゴを 短編集

 虎ちゃん……
 行っちゃった……


 虎ちゃんとお客さんの話声が
 私に耳に入ってくる。


「虎くんのおススメの服って
 どれかな?」


「そうですね。
 チャイナドレスとかどうですか? 

 奈津子さんなら大人っぽいし
 これぐらい大胆な服とか
 似合いそうですよね」


「私にはこのピンクは
 かわいすぎじゃないかな?」


「そうですか?
 奈津子さんなら、目元とかかわいいし
 普通に着こなせると思いますけど」


「虎くんがそこまで言ってくれるなら
 これにしようかな」


「ありがとうございます」


 二人でレジに向かいながら
 肩を並べて笑いあっている。


 あの美人なお姉さんは
 ただのお客さんだってわかっているのに。

 私への態度と違いすぎて
 さすがに胸がチクチクする。


 でも、笑わなきゃ!!

 だって虎ちゃん。
 笑っている子が好きだって
 言っていたから!!


 そう頭ではわかっているのに。
 頬がひきつって
 笑顔なんて作れない。


 だって
 あの美人お姉さんには
 とびきりの笑顔で笑うのに。

 私には滅多に
 笑顔なんて見せてくれないし。


 それにあの人には『目元がかわいい』
 って言ってたけど。

 虎ちゃんが私に
 『かわいい』って言ってくれるのは
 コスプレした時だけだし。


 私って本当に……
 彼女なのかな?
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