触れたい指先、触れられない心
「あ……」
突き当りの角から、サヤカの姿が見えた。
きっとわたしもいることは想定していなかったのか、一瞬だけ表情が歪んだような気がした。
「……霞、どうしてあたしを?」
「話したい事があるんだ。……三人では不服か?」
「別に? 霞と一緒にいれるのなら、構わないわ」
わたしの姿なんて見ていないかのように、サヤカは霞さんの隣に腰掛け、肩に寄り添った。
「…………っ」
だめだ、こんなことで動揺してたら……
「今更、何故そこまでして俺に構う?」
霞さんはサヤカから距離をとって、話を切り出した。
「あたしはまだ霞が好きなの。だから……もう一度婚約してほしい」
「それは無理だ。もう俺には……大切な婚約者がいる」
霞さんはキッパリと断った。
「婚約者がいるから、断るんでしょ? 霞……この女の事好きなの?」
サヤカは真剣な表情で問いかけた。
霞さんはわたしの事が好きじゃない……
それを知られたら、サヤカはきっと今まで以上に霞さんに……
それに、霞さんの口からこんな事聞きたくない……
”好きじゃない”なんて……聞きたくないよ……
「ごめんなさいっ!!! 飲み物買ってきます!」
わたしは大声を出して勢い良く立ち上がった
「詩音!」
霞さんはわたしの意図を察したようで、わたしの腕を掴んだ。
――……ごめんなさい、これだけは聞きたくない。
きっとわたしは、耐えられない。
「……ごめんなさい、本当にのどが渇いてるので……っ。すぐに戻ってきますから」
わたしはそう告げると、霞さんの手を振りほどいて、その場から走り去った。