桜田課長の秘密
「どうかしましたか。江本……もとい、営業の田中さん」

終わった……社員の夢、ここに破れたり。

ガックリと肩を落とした私に、桜田課長は予想外の言葉をかけてくる。

「その作者、お好きなんですか」

と……差し出された指にドキリとした。

どうして今まで気がつかなかったのだろう。

冴えない容貌に似合わず、節の目立つ長くて男らしい指。〝手フェチ〟の私としたことが、うっかり見落としていたようだ。

それをおかずに、白飯をかきこみたい欲求を抑えながら、彼の指す本に目を落とす。

「佐田倉《さたくら》 風助《ふうすけ》ですか?……ええ、まあ」

「前にも同じ作者の本を読んでいるのを見ました」

流石はリストラの鬼。よく見ていらっしゃることで……

「ええ、桜田課長もお好きなんでしょうか」

「どういうところが?」

私の質問は無視かいっ!――というツッコミはのみこんで、ページをめくりつつ答える。


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