桜田課長の秘密
言われていることが把握できない私を置いて、口撃は更に続く。

「低レベルな欲求のために、会社の品位を貶めたんです。訴えられないだけマシだと思ってください」

虫ケラでも見るようなその顔に、ようやく彼の言わんとすることが分かった。
同時にお腹の奥からふつふつと湧いてくる怒り。

なにも知らないくせに――

「……あやまってください」

自分でも驚くほど低い声が出た。

「ブランド品に興味はありません。男性と交際した経験はないし、入れあげたこともない。自慢じゃありませんが、未だ処女を捨てられない痛い女なんです」

ゆっくりと立ちあがって、頭ふたつ高い位置にある目を睨みつけた。

「いくら人事部だからって、勝手な決めつけで侮辱しないでください」

驚いたように私を見ていた課長は、やがて小さく肩をすくめながら頭を下げる。

「確かに不適切な発言でした。申し訳ありません。では、事情をお聞きしましょう」

『ここではなんですから』と促され、ついて行くと会議室に入るなり本題を切り出された。

< 16 / 90 >

この作品をシェア

pagetop