桜田課長の秘密
「そのメガネ、特別に度数が高いわけじゃないですよね。さっき裸眼で歩いていましたし」

「フッ、観察眼だけは鋭いようで」

この人はいちいち嫌味な言い方をしないと、気が済まないのだろうか。
泡立つ気持ちを隠して、質問を続ける。

「それにしては、随分と目の大きさが変わりますよね」

課長は『お見せしましょう』と、メガネを外して座卓の上に置いた。

「レンズを大きく分厚くして、屈折率も押さえています。さらに出来る限り顔から離れるようにデザインした特注なんです」

『ほら』と、メガネのツルを持って、顔の前で前後して見せる。
たしかにレンズが離れるほどに目が小さくなり、こめかみの部分が凹んで映るけど。

「何のために、そんなメガネを作ったんですか」

不自然に分厚いレンズを眺めながら口にした疑問に、課長はスルリと答える。

「端的に答えるなら、女に言い寄られるのを避けるためです」

はいはい、そうですか。
モテるって大変ですね。

「ほかにも猫背で顎を突き出した姿勢だったり……スーツもそうです。嫌がるテーラーを説得して、見てくれが悪くなるよう作らせました」

淡々と説明する課長に、毒気を抜かれてしまったのだろう。
もう、突っ込む気にもなれなかった。
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