桜田課長の秘密
「勘違いしないで下さい。なにも処女を差し出せと言っているのではありません」

「じゃあ、どうして……」

「次回作のモデルになって欲しいのです」

「モデル? 私がですか」

「ええ。佐田倉 風助、初の官能小説は、初々しい女を淫らに開花させる、繊細でありながらも泥臭い恋愛ものにしたいと思っています」

耽美主義の王道を走っているような佐田倉 風助が?

「いやいや、無理だと思いますよ」

「どうして」

「だって課長、人間の泥くさい部分なんて分からないでしょう」

「……」

言葉に詰まった課長に、ここぞとばかりに反撃を仕掛ける。

「女を面倒だと感じているくせに……理屈じゃない、燃えるような恋が想像できるんですか」

このさい自分のことは棚に上げさせてもらう。

「そもそも課長、女性と付き合ったこと、あります?」

それまで無表情だった彼の顔に、ほんのわずかだ挑むような熱が浮かび上がった。




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