桜田課長の秘密
今すぐ飛び掛かって、首を絞めてやろうか。
さぞかし怖がるんだろうなあ。

なんて物騒な想像をしながら資料を受け取った。

気持ちを切り替えるために『よし!』と、ほっぺたを両手で叩き、大きく深呼吸。
使い込んだキーボードに、指を置いたときだった。

「ねえ、どうしてクビになりそうだったの?」

「みひやっ!」

突然、耳元でささやかれた甘い声に、妙な悲鳴が漏れる。

顔をあげると、ハイエナ軍団のボス。
原口静香が背後霊よろしく、ピタリと背中に張り付いていた。

「た……たいしたことじゃないですよ。ちょっとした誤解です」

「誤解って? 詳しく教えて」

人を脅かしておいて、当人はふんわりと微笑んでいる。

今年31歳になる彼女だが、桜貝みたいなベビーピンクの爪を唇にあてて首をかしげる様が、なんとも愛らしい。

「お忙しい原口さんにお話するまでもない、取るに足らない理由です」

出来るだけやんわり断ったつもりだった。
けれど、丁寧な口調が逆効果だったのかもしれない。

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