桜田課長の秘密
「ええと、カオマンガイとフォー、生春巻きにバインセオ。食後にスアチュアもお願い」

「分かった。蓮茶もサービスしてあげる」

「ありがと、ティン」

「気にするな、ゆっくりしてね。ええと……」

私を見て首をかしげるティンさんに、相田さんが『巴ちゃんだよ』と教えた。

「トモエ、楽しみにしていろ。美味しいの作るから」

人のよさそうな笑顔を残して、来たときと同じようにバタバタと走り去る。

「素敵なお店ですね。よく来るんですか?」

「うん、営業先でコテンパンにやられた時なんかに、ここに来るとパワーを貰える気がしてね」

「相田さんでも、やられることがあるんですね」

「あるある。もうね、人格否定なんか日常茶飯事。毎日が修行です」

僧侶のように両手を合わせて、おどけて見せる。

今朝も早くから外回りだって言っていたし、彼も相当な苦労をしているんだろう。
捲られたシャツから覗く腕は、日焼けの跡が生々しい。

営業成績トップは、地道な努力の上に成り立っているのかもしれないな。

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