桜田課長の秘密
雑談をしているうちに、色鮮やかな料理が次々と運ばれてくる。

「巴ちゃんは、食べ物のシェアとか平気な人?」

「はい、大丈夫です」

「良かった。全種類、食べて欲しかったから」

決して押し付けがましくない気遣いが心地よかった。

普段の私なら、ここで警戒心というストッパーが発動する。
でも、なぜだか今日は、目の前の無邪気な笑顔を素直に受け止められた。

「わ、美味しいっ」

手際よく取り分けてくれたフォーの優しい味に驚いた。

「でしょ、日本人好みの味付けだよね」

「はい、今まで食べたフォーの中で一番です」

お世辞ではなく、他の料理も絶品だった。

「トモエ、アイスも食べろ」

私が全ての料理に感動するのに気を良くしたらしい。
ティンさんが、アイスを持ってやってきた。

「おいティン、俺のは?」

「トモエだけだよ。リョーヘー、レディーファースト知らないのか?」

国籍の違うふたりの男がじゃれ合う様子は、なんだか微笑ましい。

< 57 / 90 >

この作品をシェア

pagetop