桜田課長の秘密
「……いた」

探さなくても、ここにいた。

この半年。
昼夜と働き詰めだったので、少しの空き時間でも睡眠を取っておきたかった。
お陰で身についた、どんな場所でも一瞬で寝てしまえるスキル。
それをこんなところで発揮してしまうとは。

熱い……これは私の体が火照っているのだろうか。

このまま目を閉じていても、事態が好転するとは思えない。
なんとか、課長を起こさずに脱出しなければ。

恐怖心と戦いながら、ゆっくりと瞼を上げ――――

血の気が引いた。

眠っていると思っていた課長が、バッチリ目をあけて私を見ていたのだ。

「おはようございます」

フワリとした微笑みと一緒に、優しい声でささやかれる。

おはようございます、じゃない。

初めて結ばれた日の朝――
みたいな雰囲気を醸し出すな。

< 71 / 90 >

この作品をシェア

pagetop