桜田課長の秘密

「なにって――おはよう、のチュウ？」

「はっ、可愛く言ってもごまかされませんよ。キスはしない約束でした！」

誓約書だって、ちゃんと鞄の中に入っている。

「残りの借金、全て払ってもらいますからねっ」

「ご冗談を。こんなのは、キスに入らない」

「は？」

「実践で教えられれば早いのですが、それでは誓約を破ることになりますね」

課長は腕を組んで、はあ――と、ため息をつく。

「そもそもキスとは、なんらかの〝情〟を持って唇を合わせることです。はじめは軽く……角度をかえたり、甘噛みしたり。次第に気分が盛り上がってきたところで、舌と舌を絡め、唾液の交換を行い――」

「もう、結構ですっ！」

生々しい説明に、頬が熱くなった。
それを隠すために頭から布団をかぶると、畳の擦れる音がする。

課長が近づいてくる足音。