桜田課長の秘密
「安心してください。君を傷つけはしないし、本当に嫌なことはしません。だから――――」

そっと手を取られたと思ったら、次の瞬間には課長の肩越しに天井が見えていた。

「ただ、感じてください」

私を見下ろす彼の目の奥が、ギラリと光った。

口調は穏やかで、表情も柔らかい。
けれども決して逃れられないと、畳に押しつけられた手首の痛みに諭される。

「痛い……です。離してください」

「逃げないと約束するなら」

もちろん嘘だけど、『分かりました』と頷いた。
そして手首が解放された瞬間。

ガブリ!

目の前の腕に噛みついた。

「痛っ――」

驚いた課長が身を引いたところに、ダメ押しの一手。
起き上がりざまに、体当たりで突き飛ばす。

「帰りますっ!」

布団の脇に置いてあった、スーツと鞄を乱暴に掴んで部屋から飛び出したところで、違和感を覚えた。

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