桜田課長の秘密
おかしい……どうして追ってこないんだろう。

妙に静かな室内を、恐る恐る振り返った。

「課……長?」

座卓のとなりで、仰向けに転がっている課長の姿が目に飛び込んでくる。

うそ……どうしよう。
そう言えば、突き飛ばしたときに、ガツンという鈍い音を聞いた気がする。

課長のそばに駆け寄って顔を覗きこんだ。
閉じられた瞼がピクリとも動かないのは、意識を失っているんだろうか。

「あの……大丈夫ですか?」

声をかけても返事はなく、乱れた髪が蒼白な頬に影を落としている。

そうだ、救急車!
頭を打っているかもしれない。

鞄の中からスマホを取り出そうと、振り返ったときだった。

「きゃっ!」

突然強い力で腕を掴まれたかと思うと、その勢いで畳の上に転がされる。

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