桜田課長の秘密
フワフワと去って行くうしろ姿が見えなくなってから、やっと一息をついた。

いち難去ってまたいち難。
せっかく桜田課長から逃げられたと思ったのに、面倒な男につかまってしまったものだ。

背後から聞こえる『派遣のくせに』とか『男あさりに来てんじゃないわよ』という、女子社員の小声が痛い。

内緒話を装ってあえて聞こえるように言うのだから、女というのはつくづく嫌らしい生き物だと思う。

相田さんも相田さんだ。
イケメンで将来有望な営業のエースなんだから、派遣のアラサーにちょっかいをかけずとも、若くてかわいい子がいくらでも居るでしょうよ。

心の中で抗議したところで、彼を狙うハイエナ軍団にとって、さしずめ私は獲物を狙うハゲタカだろう。

男なんかいらんっ、金と安定をくれっ!

そう叫びたい衝動をこらえてハイエナのボスに笑顔を向けると――フン! とあからさまに顔をそむけられたれた。

でしょうね――――


『つつましく 生きていきたい それだけが げにむずかしき このご時世』

字足らず。


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