カッコウ
そもそも、みどりはあまり出かけたことがない。

家族旅行の習慣はなかったし、恋人がいなかったからデートで遠出したこともない。
 
「私、海も2回くらいしか行ったことないかも。」

今まで何をしていたのだろう、と思いながらみどりは言う。
 
「俺、実家が千葉だから。海はよく行ったよ。もしかしてみどりちゃん、泳げない?」

孝明はいたずらっぽく聞く。
 
「一応、スイミング習っていたから。それは大丈夫。」

みどりも得意気に答える。
 
「じゃあ、今度は泳ぎに行こうか。海は来年まで無理だけど。室内プールとか。」

軽く言う孝明につられて、みどりは頷く。そして
 
「プールって水着になりますよね。」

とみどりが言うと、孝明は心地よい声で笑った。
 
「水着、いいねえ。」と言いながら。

淡々としているくせに思わせぶりで。徐々に孝明のペースに乗せられていく。そういうことも、みどりには新鮮だった。
 


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