異世界でお菓子を振舞ったら、王子と竜騎士とモフモフに懐かれました
* * *
その後。ソプラノには毎日『誕生日ケーキ』の予約が入るようになった。みんな、名前入りのプレートと、ケーキに挿すろうそくもセットで買っていく。
料理長さんに相談していたカフェスペース増設の件も実現し、毎日交替で王宮料理人のみんなが厨房スタッフとしてヘルプに来てくれている。
ベイルさんとミレイさんは正式にお付き合いを始めることになり、ナッツくんやガルフさんといった獣人さんたちも、変わらず店に通ってきている。
そんな平和な日々の中、アルトさんだけは毎日忙しそうだ。土地改良の実験、そして獣人さんが働ける国づくりと、やることは山積みらしい。
忙しくても毎日ソプラノに顔を出しては、あれこれと実験の報告をしてスイーツを買っていってくれる。以前のようにゆっくりおしゃべりする時間はなくなったが、アルトさんの充実している姿を見て私は満足していた。
少しだけ、そう、ほんの少しだけさびしくて痛む胸のことは、無視することにして。
そして――。
「エリー! いるか!?」
アルトさんが土地改良の実験を始めてしばらく経ったある日、どたどたと音をたててアルトさんが店に駆け込んできた。
「アルトさん? そんなに急いで、どうしたんですか?」
さきほどまでカフェスペースでお茶していたお客さまが帰ったところで、私はちょうどその片付けをしていた。店にほかのお客さんもいないとわかって、アルトさんは私に近付いてくる。
「これを見てくれ」
差し出されたのは、リボンのかかった鉢植え。ふっくらした土からは、黄緑色のかわいらしい葉っぱが芽を出している。
「これって……?」
「俺が改良していた土の鉢植えで、これは砂糖大根の芽だ。やっと、土地の改良に成功したんだよ!」
「えっ……!」
興奮しているアルトさんの顔と、鉢植えから出た芽を交互に見つめる。
「これで研究者を雇って実験を進めることができる。今は小さな鉢植えだが、そのうち大きな畑にして、いずれはこの国全体の土地を……。ってお前、どうして泣いているんだ?」
「う、うれしくて……」
いつの間にか、大きな涙の粒がぽろぽろと、瞳からあふれていた。手の甲で濡れた頬をぬぐって、アルトさんに笑顔を向ける。
「アルトさん、本当におめでとうございます。でもどうしてこの鉢植え、リボンがかかっているんですか?」
「それは、お前にやろうと思ってだな……」
「私に、ですか? どうして……」
ぽかんとしている私を見て口ごもったあと、
「ああ、もう!」
アルトさんは、鉢植えを抱いたままの私を抱き締めた。
「お前のことが、好きだからだよ! 土地を改良しようと思い立ったのも、最初は砂糖を育ててお前を喜ばせたいと思ったからで……」
「う、嘘」
「俺は嘘なんかつかない。知ってるだろ」
背の高いアルトさんに抱き締められると、胸に顔がすっぽりうずまるかたちになる。ドキドキと脈打つアルトさんの心臓の音が私の耳に届いて、これが嘘でも夢でもないことを知る。
その後。ソプラノには毎日『誕生日ケーキ』の予約が入るようになった。みんな、名前入りのプレートと、ケーキに挿すろうそくもセットで買っていく。
料理長さんに相談していたカフェスペース増設の件も実現し、毎日交替で王宮料理人のみんなが厨房スタッフとしてヘルプに来てくれている。
ベイルさんとミレイさんは正式にお付き合いを始めることになり、ナッツくんやガルフさんといった獣人さんたちも、変わらず店に通ってきている。
そんな平和な日々の中、アルトさんだけは毎日忙しそうだ。土地改良の実験、そして獣人さんが働ける国づくりと、やることは山積みらしい。
忙しくても毎日ソプラノに顔を出しては、あれこれと実験の報告をしてスイーツを買っていってくれる。以前のようにゆっくりおしゃべりする時間はなくなったが、アルトさんの充実している姿を見て私は満足していた。
少しだけ、そう、ほんの少しだけさびしくて痛む胸のことは、無視することにして。
そして――。
「エリー! いるか!?」
アルトさんが土地改良の実験を始めてしばらく経ったある日、どたどたと音をたててアルトさんが店に駆け込んできた。
「アルトさん? そんなに急いで、どうしたんですか?」
さきほどまでカフェスペースでお茶していたお客さまが帰ったところで、私はちょうどその片付けをしていた。店にほかのお客さんもいないとわかって、アルトさんは私に近付いてくる。
「これを見てくれ」
差し出されたのは、リボンのかかった鉢植え。ふっくらした土からは、黄緑色のかわいらしい葉っぱが芽を出している。
「これって……?」
「俺が改良していた土の鉢植えで、これは砂糖大根の芽だ。やっと、土地の改良に成功したんだよ!」
「えっ……!」
興奮しているアルトさんの顔と、鉢植えから出た芽を交互に見つめる。
「これで研究者を雇って実験を進めることができる。今は小さな鉢植えだが、そのうち大きな畑にして、いずれはこの国全体の土地を……。ってお前、どうして泣いているんだ?」
「う、うれしくて……」
いつの間にか、大きな涙の粒がぽろぽろと、瞳からあふれていた。手の甲で濡れた頬をぬぐって、アルトさんに笑顔を向ける。
「アルトさん、本当におめでとうございます。でもどうしてこの鉢植え、リボンがかかっているんですか?」
「それは、お前にやろうと思ってだな……」
「私に、ですか? どうして……」
ぽかんとしている私を見て口ごもったあと、
「ああ、もう!」
アルトさんは、鉢植えを抱いたままの私を抱き締めた。
「お前のことが、好きだからだよ! 土地を改良しようと思い立ったのも、最初は砂糖を育ててお前を喜ばせたいと思ったからで……」
「う、嘘」
「俺は嘘なんかつかない。知ってるだろ」
背の高いアルトさんに抱き締められると、胸に顔がすっぽりうずまるかたちになる。ドキドキと脈打つアルトさんの心臓の音が私の耳に届いて、これが嘘でも夢でもないことを知る。