異世界でお菓子を振舞ったら、王子と竜騎士とモフモフに懐かれました
「お、おいしいです。こんなに柔らかいお肉、初めて食べました」
「そうだろう、そうだろう。なんたって、一流の食材を使えるからな。俺たちだって、家じゃこんな料理食えないさ。ここでのまかないが唯一の贅沢だな。このために王宮料理人になった奴もいるんだぜ」
「たしかにこのまかないは、魅力的ですね……」

 マッシュポテトも、ただジャガイモをつぶしたのではない味だ。牛乳とチーズも入ってる? スープのコンソメも、何日も煮込んだ老舗レストランの味がする。パンだって、家のかまどじゃこんなに柔らかく焼けない。

「ははは。エリーさんも、ここで働きたくなったかい? いつでも歓迎するよ」
「か、考えておきますね」

 がっはっはと笑いながら冗談を飛ばす料理長さんも、それに合わせてほがらかに笑う他の料理人さんたちも、飾らない気さくな人たちだとわかる。

「しかし、若いとは聞いていたが、この国随一のパティシエが、こんなにかわいらしいお嬢さんだとはなあ……。いくつなんだい?」

 料理長さんが、私の横顔を見つめながらしみじみとつぶやく。

「十六歳です」
「俺の娘と同じ歳じゃないか! それでもう店を持っているのか? はあ~、すげえなあ」

 精神的には十六歳じゃないし、王子と竜騎士という後ろ盾もあるしで、幸運が重なっただけなので、褒められると恐縮してしまう。

「そ、そんなことないですよ。たまたま、趣味が活かせただけで」
「趣味ってあんた。俺たちは、外国のスイーツのレシピを総出で翻訳しても、わけわからなかったんだ。ひとりでここまでやったのはすごいことだぜ。謙遜しちゃあいけねえな」
「あ、ありがとうございます……」

 やたら圧のある褒め方をされて、やや引き気味になる。すると、対面に座っていた料理人さんがにやにやしながら茶々を入れてきた。

「料理長は、エリーさんのレシピのファンだったでしょ。若い女の子だからって変な気起こさないでくださいよ」
「バカ言ってんじゃねえ。俺はカミさんひとすじだ」

 なんかいいな、こういう雰囲気。下町のおじさんたちもこんな感じだった。あったかくて、アットホーム。話し方は粗雑な感じもするけれど、あれだけ繊細な料理を作れる人たちだ。細やかな一面も持ち合わせているのだろう。

「まあ、エリーさんのレシピのファンだったのは本当だ。俺だけじゃなくて、ここにいる全員がな。あんたが来てくれるって聞いてみんな楽しみにしてたんだ。全力で協力するぜ」
「料理長さん……、みなさん……。ありがとうございます」

 心のこもった歓迎の言葉に、まぶたがじんわりしてくる。

「ハズレ王子の生誕祭は、いつも上ふたりの王子に比べて質素だったからな。今年は思いっきり派手にしてやろうぜ」
「ハズレ王子……?」

 私の肩を叩きながら料理長さんが漏らした言葉に、身体がこわばるのがわかった。

「おっと、口が滑った。このことは、アルファート王子には内緒にしておいてくれよ」
「はい……」

 ベイルさんが言っていた、『殿下は生誕祭にいい思い出がない』というセリフを思い出す。そして、ハズレ王子という言葉……。

 ふたりのお兄さんに比べてぱっとしない王子。庶民の間でもそう噂になっていたけれど、アルトさんのお城での境遇は、私が思っていたよりもずっと深刻なものなのかもしれない。
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