異世界でお菓子を振舞ったら、王子と竜騎士とモフモフに懐かれました
「じゃあ、祭りの屋台は、その場でさっと作れるものがいいんだな」
「はい、調理器具は持ち込めるそうなので。ただ、かまどみたいな大きなものは無理だと思うので、スペース的に使えるのはフライパンか蒸し器くらいかも……」
「なるほどな」

 ランチ休憩の後、私は料理長さんにお祭りの屋台の相談をしていた。厨房の横にある休憩室を使わせてもらっている。ほかの人たちはディナーの仕込みがあるそうで、休憩が終わったらまた仕事に戻っていった。これが朝・昼・晩と続くのだから大変だ。もしかしたら今は、三時のおやつもあるのかもしれないし。

「思ったんだが、クッキーとか一口タルトとかのちょっとしたつまめるものを端で売ったらどうだ? 少量ずつラッピングして。お土産に買って帰る人もいそうじゃないか?」
「いいですね! スペースも無駄にしなくてすみそうです」
「じゃあ、その場で作るものとラッピングして売るものの候補を、各々明日までに考えておくってことでどうだ?」
「はい、大丈夫です」

 料理長さんはさすがプロ中のプロだ。話をしていても、ぽんぽんアイディアが飛び出す。

「エリーさんは、厨房を好きに使って試作していいからな」
「ありがとうございます。みなさんの邪魔にならないように使わせてもらいますね」

 よし、とつぶやいて料理長さんは大きく伸びをした。コック帽はテーブルの上に置いてあり、今は白髪まじりのグレーの短髪が見えている。

「いつもは常に動いているからな。こういった会議はかえって肩がこるものなんだな」

 屈託のない笑顔に、私もつられてふふっと笑みがこぼれた。

「じゃあ次は、生誕祭に作るものだな。エリーさんは、アルファート王子と親しいんだよな? 王子が喜びそうなもの、なにか思いつくか?」
「そのことなんですけど……」

 ふうっと息をついて言葉を切ると、「ん?」という様子で料理長さんが首を傾げる。
 この話題になったら、尋ねようと思っていたことがある。本当は口に出したくない言葉を発するのに、身体にぐっと力が入るのがわかった。

「アルトさんが『ハズレ王子』って呼ばれている理由を教えていただきたいんです」

 料理長さんの顔が一瞬にして渋くなる。
 蒸し返して、嫌がられるのはわかっていた。でも、アルトさんの苦しみを知らないままにして、のんきに生誕祭のメニューを考える気持ちにはなれなかった。

「やっぱり、追及されるか……」
「ごめんなさい。アルトさんには言いません。ただ私が知りたいだけなんです。アルトさんは私の大切な……友人ですから」
「友人、か」
「その、王子に対して庶民が友人だなんて、失礼かもしれないんですけど」
「いや、そんなことねえよ。アルファート王子は幸せ者だと思うぜ。こんなふうに気にかけてくれる友人がいて」

 ふっと表情をゆるめた料理長さんが、真剣な顔に戻って私を見つめた。
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