異世界でお菓子を振舞ったら、王子と竜騎士とモフモフに懐かれました
 そう考えていたら、お城からの帰り道、『スイーツ工房ソプラノ』の前でアルトさんに会った。

「アルトさん……?」

 石畳の街を染めるオレンジ色の夕陽。その光の中で、アルトさんはお店を眺めて佇んでいた。いつかと同じ、街頭に背中を預けるようにして。
 違うのは、表情がなんだか寂しそうだってこと。ここにいるのに、心は遠くに飛んでいるみたいな、そんな気がした。

「……エリー」

 私が声をかけると、アルトさんは驚いたように振り向いた。その瞬間寂しそうな表情はぱっと変わり、いつもの自信満々のアルトさんに戻る。
 この人は、いつもこんなふうに自分の弱みを見せないできたのかな。そう思うと切なかった。

「驚いたな。どうしてこんなところにいるんだ? 今は店は代わりの者に任せているのだろう? だいたいもう、日も暮れているし危ないぞ」

 そんな私の様子には気付かず、アルトさんは両手を腰に当てた。

「えっと、帰りにちょっとだけお店の様子を見て行こうなかって……。ここのところずっと、来られてなかったので」

 それも嘘ではない。直接辻馬車でお城まで通い、帰りも家まで直行する。代理の料理人さんに任せているとはいえ、そろそろお店が気がかりだったのは本当だ。
 でも、それ意外にも理由がある。アルトさんのことを考えていて、ここに来れば会えるかもなんて思ったこと、とても言えない。

「そうか」

 アルトさんはなぜか、ちょっと嬉しそうに顔をかいた。

 いつもの、ロイヤルブルーのフロックコート。出会った頃から比べると少しだけ伸びた、肩につかない程度の長さのつややかな黒髪。夕陽に照らされているせいで顔の陰影はいつもより深いけれど、見慣れたアルトさんの姿だ。

 お店ができてから毎日のように会っていたから、もうずいぶん長いこと会っていないような気がする。お店を離れてまだ、二週間も経っていないのに。

「アルトさんは、何でここに?」

 スイーツを買いにきたにしては、いる場所がおかしいと思って尋ねると、アルトさんは肩をびくっと震わせた。

「別に、散歩だ散歩! 俺がどこにいようと自由だろ?」
「そ、それはそうですけど。そんな言い方しなくても……」
「す、すまん」

 私が言い返すと、アルトさんはしゅんと眉尻を下げた。

「いやあの、気にしなくていいです。どこを散歩しても自由なのは本当ですし……」
「あ、ああ……。まあ散歩というか偵察というか」
「偵察? なんのですか?」
「そ、それはだな……」

 アルトさんが黙ってしまったため、私たちの間に気まずい沈黙が流れる。
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