異世界でお菓子を振舞ったら、王子と竜騎士とモフモフに懐かれました
「ま、まあ、ここでお前に会えたのはちょうどよかった。伝えておくことがあったからな」

 ごほん、と咳払いしたあとアルトさんが話題をむりやり変えてそう切り出す。

「伝えておくこと、ですか?」
「ああ。祭りの日、王族が城のバルコニーに出て挨拶する時間があるだろう?」
「はい。お祭りのクライマックスの時間ですよね」

 最終日の夜、王妃や王子が順番に挨拶をして、最後に王様が春の訪れに感謝を述べて国の繁栄を願う、というのが毎年恒例のお祭りの締め方だ。
 年齢が上の者から出てくるから、アルトさんの挨拶は王様の直前だ。

「その、俺の番のときに城の中庭に来て欲しいんだ。そうだな……ちょうど噴水があるあたりに。城の中には入れるように門番に言いつけておくから」
「えっ、どうしてですか? 本当はお祭りの時間帯って、お城の中には入れないんじゃ」

 ちょうどお城敷地の目の前にある、貴族街の広場でお祭りが行われるため、門は厳重に警備されているはずだ。王族の声には拡声魔法を使うから、遠くにいても挨拶の声が聞こえる。

「見せたいものがあるんだ。内容は秘密だが、きっとお前は驚くぞ」

 アルトさんの口調はうきうきしている。
 いったいなにを見せられるのかちょっと不安な気持ちはあるが、アルトさんがこんなに楽しそうなのだから、悪いものではないはずだ。

「わかりました。噴水の近くに行けばいいんですね」

「ああ。そういえばお前のほうも、出店に出すメニューが決まったんだろ? 今日申請があったぞ」
「はい。ふわふわパンケーキとタピオカミルクティーです。どっちも新作ですよ」
「それは楽しみだな。俺はパレード以外では祭りの会場には行けないからな……。ベイルに買ってきてもらうか」

 さすがに、いつもみたいに変装してこっそり行く、というわけにもいかないのだろう。お祭りみたいに大勢の人が集まる場所だと、アルトさんの魔法に耐性がある人もいるだろうし。

「パレード、楽しみにしてますね」
「それは楽しみにしなくていい。馬車の中から愛想よく手を振るなんて、俺の性に合わん」

 苦々しい顔をしながら、アルトさんはそう吐き捨てた。

 王族がきらびやかな馬車に乗って、楽器隊と共に貴族街を練り歩くパレードはお祭りのメインイベントだ。私もそれで、アルトさんの顔を遠くから見たことがある。あのときアルトさんはどんな表情をしていただろう。もう覚えていないが、きっと引きつった笑顔で手を振っていたに違いない。
 想像すると、うっかり笑いそうになった。

「あ、お前今心の中で笑っただろ」
「わ、笑ってません。似合わないだなんて思ってません」
「それは思っていると言っているようなものじゃないか」

 ああ、この感じ。懐かしい軽口のやり取りに、凝り固まっていた心が少しほぐれた気がした。

「じゃあ、確かに伝えたからな。俺は城に帰る。お前も暗くなる前に早く帰れよ」
「は、はい。さようなら」

 すでに歩き出していたアルトさんは背を向けたまま私にひらひらと手を振った。

 なんとなく、すぐお店に入る気がしなくて、そのまましばらくアルトさんの後ろ姿を眺めていた。振り向いてほしいような振り向いてほしくないような、不思議な気持ちで。

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