異世界でお菓子を振舞ったら、王子と竜騎士とモフモフに懐かれました
「じゃあ、寝ていて気付かなかったのかな。殿下、すごく取り乱していてね。あんなアルファート殿下は初めて見たな。顔が真っ青で、エリーちゃんがよくならなかったら殿下まで倒れてしまうんじゃって思ったよ」
「ほんとですか……?」

 そういえば扉の前で交わされていたのは、第一王子の制止を振り切ってここまで来たというような会話だった。

「あの、閉会式は無事に終わったんですか……?」
「ああ、うん。集まった人たちからは騒動の様子は見えていなかったみたいでね。取り乱したアルファート殿下のかわりに第一王子が『ちょっとしたボヤがあった』と説明してくださって、国王陛下が挨拶をして無事締められたよ」
「アルトさんは、ボヤを起こしたことを怒られたりは……」

 私が尋ねると、ベイルさんが顔を曇らせた。

「どうだろうね……。城の中でのことは、俺にはわからないから。でも結果的に大事にはならなかったし、少しお咎めがあるくらいじゃないかな」

 後半は明るい口調で言ってくれたけれど、それは私を安心させるための嘘だってわかった。

「ベイルさんのほうは……?」
「まあ、内緒で殿下に協力していたからね。騎士団長からはこってり絞られたさ。でも、殿下が『俺がむりやり頼んだんだ』って言ってくれたみたいで……。国王陛下からは、『次からはお前がちゃんとあいつの手綱を握っておけ』でおしまい」
「そう……ですか」
「悔しいよな。さんざん兄貴面しておいて、こんなときばかり守られるんだから」

 私から目を逸らしてつぶやいたその言葉は、アルトさん本人にも言えないベイルさんの本心なのだろう。

「じゃあまた、昼ごろに食事を持ってくるから。夕方にお医者様に来てもらうから、それで大丈夫だったら家まで送っていくよ」

 そう告げて朝食のトレイを私から受け取る。この部屋には豪華な椅子があるのに、ベイルさんは最後まで、ベッドのそばに姿勢よく立ったままだった。

「はい。ありがとうございます」
「お礼はいいよ。ここにいる間は、俺のこと遠慮なくこき使ってやって」

 振り返って微笑んだその表情は、いつもの『お兄ちゃん』なベイルさんで、私はホッとして笑顔を返した。
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