異世界でお菓子を振舞ったら、王子と竜騎士とモフモフに懐かれました
 数日後、体調も万全になってから厨房へ出仕した私を、料理長さんは肩を揺さぶる勢いで迎えてくれた。

「エリーさん、大丈夫だったか!? 閉会式のときにボヤ騒ぎに巻き込まれたって聞いて心配していたんだが」

 なかなか屋台に戻ってこない私を心配していた料理長さんのもとに、ベイルさんが事情を説明しに来たらしい。回復まで時間がかかるかもしれないから、しばらく厨房には顔を出せないかも、ということも。

「大丈夫です。ちょっと水がかかって、風邪を引いただけですから」
「そうなのか? アルファート王子が謹慎処分を受けてるって聞いて、俺はもっと大事(おおごと)なのかと……」
「えっ、謹慎!?」

 そんな話、ベイルさんからは聞いていない。

「ああ、メイドから聞いたんだがな。生誕祭の日まで自室で謹慎だとさ。勝手に抜け出さないように見張りまでいるって話だ」
「そんな、ひどい!」

 思わず大きな声が出てしまい、口を手でおおった。生誕祭まであと一週間以上あるのに、それはもう謹慎処分じゃなくて軟禁状態じゃないか。唯一の息抜きだった市井にも下りられないし、ソプラノにスイーツも買いにいけない。ベイルさんだって、自室まで会いに行けるかわからない。

 生誕祭は予定通り開催できるって言っても、あの兄たちが本心から祝ってくれるのだろうか。家族が祝ってくれない、そんな誕生日なんて悲しい。

 施設の先生が教えてくれた。誕生日は、生まれてきてくれたこと、この歳まで元気に生きてくれたことをお祝いする日なんだよって。

 私は、アルトさんが生まれてきてくれたことがうれしい。今まで生きてくれて、出会えたことがうれしい。

 せめて私やベイルさんが、アルトさんの誕生日を本気でお祝いしてるって伝わってほしい。施設の先生たちが、私にそうしてくれたように。

「……あっ」

 そうだ、そうだった。私、どうしてこんな簡単なことに気付かなかったんだろう。誕生日をお祝いするのに、凝ったスイーツなんていらなかったんだ。

「……料理長さん。私、生誕祭のメインスイーツ、決めました」
「おっ、本当か? どんなスイーツなんだ?」

 私の説明を聞き終えた料理長さんは、意外そうな顔で首をひねった。

「それは……、思ったより普通だな。本当にそれでいいのか?」
「はい。アルトさんに一番必要なものは普通のことなんだって、わかったので」
「そうか」
「ただ、演出をちょっと加えたいんです。具体的には……」

 演出といっても、特別な道具はいらない、前世で何度もやってきたものだ。

「ほう、面白いな。他国にはそんな文化があるのか」
「はい。少し変えなきゃいけないところはありそうですけど」
「あまり時間もないし、さっそく今日から試作品を作らないとな。いくら普通だと言っても、いつもとは勝手が違うだろうし」
「よろしくお願いします」

 それからメインのスイーツ、ビュッフェのスイーツともに試作を繰り返し、季節はおだやかな四月へ。この国には桜がないけれど、気持ちの上では春爛漫だ。

 そしてついに、生誕祭の日を迎えた。
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