ノクターン

お母様の運転する車は、私達の前を走って東京へ帰って行く。
 

「今日は、お母様が運転なのね。」

私は、車の中で 智くんに聞く。
 

「いつも、運転はおふくろだよ。親父が運転していて 何かあったら 大変な事になるからって。」
 

「そうなの。そうだね、確かに。」


お母様の言う “ 支える ” って、こういう事なのだ。

私は、まだまだ何もわかっていない。


いつか、私もお母様のようになりたいと 強く思う。
 


「私も運転、練習しようかな。」

私は、ペーパードライバーで 軽井沢に帰った時でさえ 自分では運転しない。
 


「やめてよ。怖いなあ。」

智くんは、明るく笑う。
 
「ひどいなあ。これでも教習場では 褒められていたんだよ。」
 

「気持ちだけで十分。ありがとう。」

智くんは、茶化すように笑う。
 


守られている幸せが 私を甘く包む。

これじゃ、お母様みたいな 毅然とした女性になる日は遠い。


でも、今はいいか。

まだ甘えてしまっても。


いつかきっと、必ず。

その日までは みんなに甘えて 可愛がってもらおう。
 

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