ノクターン
部屋着に着替えてから コーヒーを入れていると
智くんに、「おいで。」と呼ばれる。
私は、いつものように 智くんの隣に座る。
智くんは、優しく私の髪を撫でながら、
「今日は、お金の話しをしようね。」
と言って、一冊の預金通帳とカードを差し出した。
「これからは、この口座に 毎月の生活費を入れておくね。麻有ちゃんは、それを使ってね。」
「お家賃、無いんだから いらないよ。」
私は言う。
「マンションの費用は 管理費とか光熱費とか全部、親父の口座から引落しになるよ。これは、親父の希望だからね。」
智くんの言葉は、さらに私を驚かす。
「そんな。」
「麻有ちゃんは、この口座のお金を生活費にしてね。俺の口座にも残るから、遊びに行ったり外食したりする時は 今まで通り 俺が支払いできるからね。」
「私のお給料もあるし。本当にいらないよ。」
「麻有ちゃんのお昼代とか定期代も、携帯電話の支払も、ここから使って。麻有ちゃんのお給料は 手を付けずにおこうね。」
「いいの?」
私は、元々あまり、無駄使いはしない。買った物は 大事に長く使う。
「化粧品とか、美容室とか。余ったら麻有ちゃんの事に使って。残そうと思わないでいいからね。これは給与で、賞与は全部、貯めていけるからね。」
「智くんが 支払いする事の方が多いから 私はそんなにいらないのに。」
「俺はクレジットカードがあるから。俺のカードは、親父の口座から落ちる事になっているんだよ。これも、このまま使うように言われているんだ。大きな買い物とか、旅行する時は カードを使えばいいからね。」
「私、贅沢に慣れていないから。」
「いいんだよ。」智くんは 優しく言う。
智くんと私の収入で生活しても、十分豊かな暮らしができるだろう。
でも、お父様の援助は 私達には その上の生活をしてほしいという事。
それが廣澤家の家族になるという事。
私が憧れていた生活、子供の頃から。