ノクターン

「麻有ちゃん、ありがとう。」

お母様は 目頭を押さえながら言ってくれた。


ありがとうは、私の方なのに。

私の胸も熱くなる。


今日は、泣かないと決めたのに。


グッと奥歯を噛んで、涙を堪える。

不自然に 笑顔が歪む。
 


「麻有ちゃんは、泣かないで。」お姉様が優しく言ってくれる。
 
「そうだね。みんなも 泣いちゃダメだよ。おめでとう、なんだから。」


お兄様が明るく言う。

みんな、それぞれに瞼を抑える。
 

「うれしくてね。二人の ここまでの道のりを思うとね。麻有ちゃん 良く似合うよ。」


お父様の温かい言葉に みんなが頷く。



私の心を満たす 幸せなオーラは どんな化粧よりも ドレスを似合わせていたと思う。
 

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