あなただったんだ
月曜日。朝行ったら、豊はすでに外回りに出ていた。なんだか、ちょっと残念なような。でも、やっぱりホッとした方が多いかな。

悠也とは毎日、顔を合わせる。同じ課だから。

「本多さん、おはようございます」

週末の夏海とのツーショットが脳裏にちらつく。向こうは気がついていなかったようだけど。

「ちょっと、ちょっと、奈菜」

同期の田口朋美が声をかける――女子トイレに連行される。

「本多さんと、別れたんだって?噂になってるよ。いつ?」

「ついこのあいだよ。まいったな、やりにくい」

「モーションかけてくる人とか多いかもよ。技術の高山さんとか、企画の紺野さんとか」

ちょっとイケメンの名前を出す朋美。

「まっさかぁ。・・・それより、悠・・・本多さんと一緒に仕事出来るか不安」

「それは・・・きつそうだね」

「あたしね、出版の仕事をしたいって夢があるの。だから・・・辞めちゃうのもテかなって。ピンチはチャンスって言うじゃない」

「でも、年齢分かってる?私たち、29歳よ」

「だからこそ、辞めるなら、今かな、って」

「待って。次の仕事が見つかってからでも・・・」

「本多さんと夏海さんを見てるのがつらいの」

「奈菜・・・私は、奈菜に負けてほしくない」

朋美が強く言った。

「そっか・・・逃げることになるかな」

「そうよ。秋川さんは隣の課だし、そんなに一緒にいる姿を見ることはないと思うよ」

「うん・・・がんばってみる、ね。ありがとう、朋美」

思わず、涙が浮かんできてしまう。味方がいるっていいものだ。

「あと、心配なのは・・・さびしさで簡単に新しい彼を作らないこと」

「うぅっ・・・」

豊は・・・どうなのだろうか。

「まさか、あんた、もう彼を作ったの?」

「彼、じゃないよ。宮田さんと会ってる」

「えっ、秋川さんの元カレ?・・・う~ん、それってどうなのかな」

「どう、って?」

「傷の舐めあいじゃないの?」

「そう言うのを超えて、好きな気がする」

言葉にしてみて、自覚した。豊の優しさが、好きだ。

「おっと!いい加減、戻んなきゃ!じゃあ、宮田君との進展状況は、詳細希望!じゃあね」

2人は駆け足で、オフィスに戻った。
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