戀のウタ
 白河は逡巡したがこの先に行かねば埒が明けないので大人しく歩を進める。

 ノックの手加減が分からないほど重厚な扉を緊張しながら叩く。
 中から微かに了承の言葉が聞こえたので白河は「失礼します」とよく通る声で答えて扉を開けた。

 扉を開けた先に広さ20畳以上ありそうな豪奢な執務室が広がる。
 デスクやソファ、本棚と言った調度品の質の良さに白河は内心「税金の無駄遣いだ」と毒吐きながら視線だけ巡らせた。

 軽く巡らせた視線を正面に戻すと奥のデスクに壮年の恰幅の良い男が座っていた。


「やあ呼び出してすまんかったね、白河巡査」

「いえ構いません。早速で失礼ですが出頭要請の内容は?」


 入室した白河の姿を見とめて中央にある執務デスクに座っていた男がのっそり体の肉を持て余しながら立ち上る。

 招き入れた人物に白河は敬礼をして答えるとすぐに本題を入った。

 すぐに本題を切り出したのはこうまで住む世界の違う空間に長居したくなかったから。
 そして迎え入れた人物――管警局局長の俗物らしい風貌に嫌悪したからだ。

 そんな白河の内心など気付きもしない局長は白河の態度を職務に対して実直な好青年と捉えたようで豪快に笑って喜んだ。


「まぁ折角直帰で、ってことだから一杯やりながらゆっくりと…と思ったんだがな」

「…お気遣いありがとうございます」

「君のような真面目な人間が現場にいるということは喜ばしいよ」

「ありがとうございます」
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