授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
藪から棒に自分でも試すようなことを言っているのはわかっている。けれど、彼がどんな反応を示すのか知りたかった。父は自分の過去がトラウマで弁護士嫌いだけど、坂田所長を尊敬する黒川さんなら、もしかしたら違う考えを持っているかもしれない……とそんなわずかな希望もあった。けれど――。

「俺にとって検事は……対立不可避の関係だと思ってる。水と油みたいなもんだ。どうしてそんなことを聞くんだ?」

その温度のない口調に、ゆっくりと悪寒が這いあがってサッと身体から血の気が引いた。いっそ聞かなかった振りをしてこの場から逃げ出したかった。

あぁ、なに言ってるんだろ私……自分で自分の首絞めてる。

「い、いいえ、ちょっと聞いてみたかっただけで……他意はありません。そうだ、今度真由さんに会わせてくれませんか? 会ってみたいです」

馬鹿な質問の意図を探られたくなくて、敢えて明るい顔を作ってにこりと笑ってみせる。

「ああ、そうだな。俺にこんな可愛い恋人ができたなんて知ったら……きっと驚くだろうな」

なぜか語尾に力がなくなった。怪訝に思っていると、黒川さんが私の唇に掠めるようなキスをした。

「ち、ちょっと、こんなところで……」

「君にキスしたいって思ったら抑えきれなくなっただけだ。なぁ、俺がこの前浅草神社でなにを願ったと思う?」

「……健康祈願、とか?」

戸惑いながら答えると、黒川さんがプッと噴き出した。

「……君とずっと一緒にいられますように、ってお願いした。だから菜穂と同じこと思ってたって知って、あのとき嬉しかったんだ」

黒川さんが私の髪を愛おしそうに撫で、唇に笑みを浮かべた。

私だって嬉しい。ずっとずっと一緒にいたい。けれど……。

――対立不可避の関係だと思ってる。水と油みたいなもんだ。

あぁ、お父さんのこと、ますます言いにくくなっちゃったよ。

黒川さんの言葉がモヤモヤと分厚い灰色の雲となり、いつまでも晴れない空のように立ち込めていた。
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