授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
「急にこんなこと言われても困る、よな。けど、俺は君との将来を考えて付き合っているつもりだ。だから、考えて欲しい。それは婚約指輪だ」

冗談だよ、って言われたら今ならまだ笑って返せる。けれど、まっすぐに見据えるその視線と光り輝く指輪が“これは冗談なんかじゃない”と告げていた。

「それに、いずれ君のご家族にもちゃんとご挨拶に伺うつもりだ」

「黒川さん……」

返す言葉が見つからない。その代わりに無意味に彼の名前を口からこぼれる。

今日、敢えてプライベートルームを予約したのはこのためだったんだ。

こんなふうにいつかステキな人から求婚されることを夢見ていた。これはその夢の続きなのか、自分が妄想の世界にいるのかさえわからなくて指輪を見つめる瞳が揺れる。

――私も、私も黒川さんと一緒になりたい。結婚したいです。

そう言おうとして唇を開くけれど、父のことがよぎって再び閉ざす。

こんなステキな人と結婚できたら、どんなに毎日が幸せだろう。

けれど、その前に私は黒川さんに話さなければならないことがある。

もうこれ以上、お父さんのことを隠し続けることはできない……。

そう思うと、出かかった言葉が胸の中でスッと消えていった。

「どうした?」
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