授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
曇り顔の私を見て心配したのか、黒川さんに声をかけられて我に返る。もちろん、突然プロポーズされて嬉しい。嬉しい以上に指輪まで用意されていて驚いた。変に誤解されたくなくて慌てて笑顔を作って見せるけれど、心なしかぎこちないのがわかる。

「す、すみません。びっくりしてしまって……」

デザートに出された桜のソルベが手つかずのまま溶けて形が崩れている。それをじっと見つめながら、私は指輪の入った箱を置き、ぐっとテーブルの下で拳を握りしめて短く息を吸った。

「あの……私からも大事な話があるんです。その、父のこと……なんですけど」

ここまで口にしたら、やっぱり何でもありませんなんて言って引き返せない。黒川さんも「父」と聞いて耳を傾けている。

「君のお父さんが何だって?」

彼は“何でもいいから言ってみろ”と優しく笑いかけてくれているけれど、この笑顔が凍りつくと思うと……怖い。

黒川さんの顔をまともに見られなくて、俯いたままぎゅっと目を閉じる。

「実は……私の父、検察庁の検事総長なんですっ」

言ってしまった。ついに言っちゃった!

もう時間を巻き戻すこともできない。
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