授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
うっすらと目を開けると、先ほどよりもさらに溶けてすでに原型を留めないソルベが見える。私はそれ以上視線をあげることができなくて唇を噛んだ。

どうして黙ってたんだ。検事なんて弁護士の敵だ!プロポーズはなかったことにしてくれ!そう言われる覚悟をしてドキドキしていると、意外にもクスッと小さく笑う気配がして視線を跳ね上げた。

「君のお父さんは泣く子も黙る松下検事、だろ?」

「……え?」

プロポーズされたときと全く同じリアクションで、またポカンと口が開いたまま思考が止まった。心臓まで止まりそうな勢いだ。

「知ってた、んですか?」

「知ってるもなにも新人弁護士じゃない限り、松下検事のことを知らない弁護士なんかいないぞ? と言っても、初めは君が松下検事の娘だってことには気づかなかったけどな」

お父さんって、そんなに有名なの? あのお父さんが?

いつも過保護に『菜穂ちゃん、ひとり暮らしが辛かったらいつでも家に帰って来ていいんだからね』とか『食事はちゃんとしてる? ケータリングサービス手配しようか?』とか『仕事の送り迎えの車を付けようか?』とか、まるで私を甘やかすことに生きがいを感じているかのようで、厳格な一面は滅多に見たことがない。

そんな性格の父が法曹界に名前が知れ渡るほど有名だなんてにわかに信じがたかった。
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