授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
あんなこと言われたくらいでめそめそするなんて、情けない。

閉められた部屋のドアの向こうに人の気配がする。きっと黒川さんだ。

顔を合わせたら、にっこり笑ってちゃんとお礼を言って……。

「まったく、余計なことを言ってくれたものだな」

頭の中で黒川さんに言うことを考えていると、低い声がドア越しに聞こえてハッとなる。

「なんだってそんなことを言ったんだ。君には関係ないことだろ」

誰かと電話をしているその声は黒川さんで間違いないみたいだけど、かなり怒っているような口調だ。

「君は菜穂を傷つけて、それで満足なのか? 謝る相手は俺じゃないだろ」

会話の感じからすると、たぶん電話の相手は紗希さんだ。

「ああ、その件はわかってるよ。いいか、頼むから彼女に余計なことを言わないでくれ、話がややこしくなる」

そう言ってからしばらく沈黙が続く、どうやら電話が終わったようだ。女性に対してあんな強い口調の黒川さんは初めてだった。それだけ紗希さんとは長い付き合いで気の置けない間柄なのだと思わされる。

なんだか部屋を出るに出られない雰囲気にどうしようかと思っていると。

「ああ、起きたか」
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