授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
私の実家は世田谷の閑静な高級住宅街の一角にある。

父の曾祖父の代に建てられた平屋の純日本家屋で、眩しいほどの白壁に漆黒の瓦を載せた瓦土塀。重厚な数寄屋門はこの辺りじゃひと際目立つ家だった。本当に静かな所でここが都内だということも忘れてしまうくらいだ。

はぁ、黒川さん、今頃心配してるよね……どうしよう。仕事だって――。

昨夜、いきなり父が目の前に現れたとき、実家に連れ戻される予感がした。それならば、黒川さんのことをきちんと話そうと思って車に乗ったはいいけれど、唯一の連絡手段であるスマホを取り上げられてしまった。そして、しばらく自宅謹慎という仕打ち。なんだか罠に嵌ってしまった気がして腑に落ちない。

昨夜は時間も遅かったから話は明日だって言ってたけど、なにもスマホを取り上げることないじゃない!

私が実家を出て以来、なにひとつ変わっていない自分の部屋の窓を覗くと、広々とした庭に佇む剪定された楓の木が見える。一睡もせずに一晩中泣きはらした目元は腫れていて、太陽の光が目に染みた。黒川さんのことばかりが頭に浮かんで、家政婦の香帆さんが持ってきてくれた朝食も喉に通らなかった。

あれってやっぱり黒川さんだったのかな……。
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