授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
項垂れた頭を勢いよくパッとあげる。すると、香帆さんが「シッ!」と唇に人差し指を当てた。

「残念ながら、旦那様に追い返されてしまったようですが……おそらく、その黒川様という方は菜穂さんがここにいることをご存知だと思いますよ。では失礼いたします」

本当は一切の情報を私に与えないように。と父から言われているはずだけど、香帆さんは昔から情が深くて、ときどき父にも意見する芯の強いところがある。そんな彼女の良心につけこむ気はないけれど、協力者にできないかと部屋を去っていく香帆さんの背中を見つめながらそんなことが頭に過った。

あぁもう! なんとかしてここから出なきゃ。

父は用心深い性格で、家のいたるところに監視カメラが設置されている。家政婦も香帆さん以外に何人かいるし、玄関から堂々と抜け出そうとしてもおそらく途中で鉢合わせしてしまう可能性がある。

これじゃまるで軟禁状態ね……。

部屋にこもると意味もなく行ったり来たりウロウロしながら頭をフル回転させ、なんとかこの状況から脱する方法をあれこれ考えるけれど、結局、父が帰って来るまでなにもできずに一日が過ぎていった。
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