授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
その日の夜。

私は庭に面した居間に通され、木目の美しい座卓の前で正座して私は父が来るのを待っていた。真面目な話をするときは、いつもこの部屋と決まっていた。

あ~ドキドキする!

実親に対して今までこんなに緊張したことはない。その証拠に香帆さんが出してくれた緑茶に手をつける余裕もなかった。

お父さんになにを話そうか考えても、きっと目の前にしたら吹っ飛んじゃうよね……。とにかく今は落ち着こう。

すると、縁側を歩く父の足音が近づいてきて襖がすらりと開いた。

「菜穂ちゃん、お待たせ」

現れた父はいつものごとく藍染の着物に黒の帯といった和装だった。父はいつも部屋では着物を着ていて、本人曰く洋服を着ているよりも楽なのだそうだ。

父は床の間を背に私と向かい合わせに座った。

齢六十を超えた父は意外にも筋肉質で、身体全体には厚みがある。笑うと優し気な表情を見せる一方で、普段は太い眉と鷲鼻の目立つ顔はお世辞にも柔和とは言い難い。だからよく周りの人から私の容姿は母親譲りだと言われてきた。「それで」と重々しく父は単刀直入に話を切り出す。

「菜穂、話があるなら先に言いなさい」
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