授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
父は頭ごなしに自分の話を押し付ける気はないようだ。これも相手の話を引き出す検事としてのテクニックなのか。それに父が“菜穂”と呼ぶときは大抵機嫌がよくない。

「お父さん、私……最初に謝らなきゃいけないことがあるの」

話す順番の先行権を渡された私は、会社をリストラになった件から黒川さんと婚約したところまで、長い話をつらつらと話し続けた。父は神妙な顔つきで胸の前で腕を組み、一度も私の話を遮ることなくなんとも堅苦しい顔つきでじっと黙って耳を傾けていた――。

「……なるほど」

ひと通り私が話を終えると、父は深いため息をついた。それから不自然な沈黙が続き、私は息苦しくて仕方がなかった。そのうち心臓がぎくしゃくと不整脈を打ち始めそうだ。

「まぁ、会社の方針もあるし腑に落ちないところはあるがリストラの話は理解した。お前が私を心配させたくなくて連絡をしなかった。と、そう思うことにしよう」

普段の甘やかすような口調とは違う。これが父の本来の話し方だ。厳格な中にも穏やかな声で言われ、とりあえずはホッとする。けれど、それもつかの間だった。

「今朝、黒川と名乗る男が家に来た。彼はお前のなんなんだ?」

これからが本題だ。そう言わんばかりに父は腕を組み直した。

「黒川さんは……私の婚約者です」
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