授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
「父が、すみませんでした……。今、実家にいるんです」

「菜穂ちゃん、特製あんパンはどうだったんだ? ちゃんと届いたのか? 黒川先生にあんこ無しのあんパンを作ってくれって血相変えて頼まれてさ」

光弘さんから少し困惑気味に尋ねられる。どうやら詳しいことは知らないようだ。

「実は、今スマホを取り上げられてしまって誰にも連絡できない状態なんです。だから黒川さんがあんこの代わりにメモの入ったカプセルを入れて届けてくれたんですけど……」

――心配するな。とにかく今はお父様の言うことに従ってくれ。

メモ紙に書かれていたことを思い出すと、チクリと胸が痛んで言葉が続かない。

「菜穂ちゃん、あの人は?」

弥生さんの視線が店の前で待つ板垣さんに向けられる。彼のことも説明しなければ……。

「私、やっぱり黒川さんには相応しくなかったみたいなんです」

「え?」

予期せぬ私の発言に弥生さんが口を噤んで目を丸くする。

「紗季さんと……関係がまだ続いてたみたいで、この前二人がホテルに入って行くとこ見ちゃって……。そんなことにも気づかなかったなんて私馬鹿ですよね。ちなみにあの人は私の……こん、監視役です」

婚約者です。そう言おうとしてやめた。認めてしまったら、もう本当に終わりのような気がして、どうしても婚約者だと言えなかった。
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