授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
外すことのできない婚約指輪に視線を落とすと、また涙が出そうになる。この指輪の存在に板垣さんは気づいているはずだけど、彼はなにも言わない。それは優しさなのか、どうせ結婚する相手だからという余裕からなのか。板垣さんの考えていることは、私にはまったくわからなかった。

「もう十分です。帰りましょう。板垣さんもせっかくのお休みなのに……付き合わせてしまって、すみません」

「俺に気を遣わないでください。では、帰りましょうか」

無理にどこか連れて行かれるよりも、家に帰ることに意義はないようで少しホッとする。板垣さんがいい人なだけに心苦しさが増す。

板垣さんの運転する車は、世田谷の実家へ向けて静かに走り出した。
< 193 / 230 >

この作品をシェア

pagetop