授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
「わざわざすみません。今日はありがとうございました」

板垣さんは律儀に部屋まで送ってくれた。これからまたひとりでこの部屋で悶々としなければならないのかと思うと気が滅入る。

「あ、あの! 菜穂さん」

軽く頭を下げて「じゃあ」と部屋のドアを閉めようとしたとき、板垣さんがもの言いたげにドアに立ちふさがった。驚く私に「すみません」と小さく呟いて、板垣さんは部屋に入ってドアを閉めた。

「その、これは松下検事からまだ菜穂さんには言うなと言われていたことなんですが……」

そう切り出しておきながら、まだ言うか言うまいか躊躇している様子で彼はしきりに目を泳がせている。そして意を決して私に視線を向けると口を開いた。

「来週、ロワイヤルウィングのクルージングディナーで船上婚約パーティーをする予定です。もちろん俺と菜穂さんの」

「え……」

こ、婚約パーティーって……そんな、もう予定まで決まってるなんて!

ロワイヤルウィングは親会社が別にある小規模な客船運航会社で、オーダーメイドでプランが組めると巷では人気がある。

きっと直前まで知らせないで私を逃げられなくするつもりだったんだ……。
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