授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
「ごちそうさまでした」

夕食を終え、いつものように香帆さんが配膳を下げに来る。

香帆さんは外に出られない私を気遣って、今日はこんなことがあった。あんなことがあったと、努めて明るく振舞ってくれる。私も笑顔で応えるけれど、香帆さんはそれが心からの笑顔ではないことに気づいていて、時折、気の毒そうに私を見つめる。

「今日はお父さん、帰り遅いの?」

父が帰宅すると、いつも門扉の向こうに車が止まる。だいたい二十時くらいだ。時計を見ると、もう二十二時を回っている。

「ええ、旦那様は今夜会食とのことで……」

「そう」

「あの、婚約パーティーのときにお召しになるドレス、もうご試着になられましたか?」

父から婚約パーティーのことを告げられた日、そのときに着ていくドレスも渡された。もちろん父が選んだものだ。膝丈スカートの淡いブルーのワンピースでほかに派手な飾り気はない。黒のシフォンストールも付いていて、シンプルで清楚に見えるドレスは父の趣味が窺えた。

「……ううん、まだ。そんな気になれなくて、ごめんなさい」

ドレスは皺にならないように香帆さんがハンガーにかけたときのままだ。試着した形跡がないから私にそう尋ねたのだろう。
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