授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
「あの……菜穂さん」

下膳してそのまま部屋から出て行くかと思いきや、香帆さんが改まったふうにして私に向き直る。

「黒川さんのこと、まだ諦めきれませんか? まだ菜穂さんの心にその方がいますか?」

「え?」

香帆さんは私がまだ黒川さんのことが好きだという事はわかっているはずだ。それをわざわざ聞くなんて、なんだか再確認されているみたいで私は迷わずコクンと頷いた。

「黒川さんは初めてずっと一緒にいたいって思えた人なの。一緒にいるだけで元気になれるし、楽しいし……こんな気持ち、初めてで……。だから別れたくない、このままひとことも話せないまま板垣さんと結婚なんてことになったら、私……もう生きていけない」

こんなこと、ここで言えるのは香帆さんくらいだ。きっとわかってくれるというわずかな希望を胸に、私は黒川さんへの想いをすべて香帆さんに話した――。
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