授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
黒川さんが私の向かいに腰を下ろすと、半分にしたあんパンを私に手渡した。

「あの人は俺の依頼人なんだ。ちょっと話し合いが難航していてね……正直少し手こずってる」

黒川さんが弱り顔で苦笑いする。悩みを抱えた依頼人を相手にすべてがうまくいくとは限らない。一見華やかに見える弁護士も、実は大変な仕事なのだと思わされた。

「ところであんパンの中身はこしあん派? それともつぶあん派?」

不意に質問されて顔をあげる。

「私は断然こしあん派です」

「気が合うな、俺も」

何気なく言ったんだろうけど「気が合う」だなんてドキリとする。

「いただきます」

ひとくち食べるとあんこの甘さが口の中でじわっと広がって、堪えきれずに歓声をあげたくなる。

はぁ、幸せ……。

ベーカリーカマチのあんパンはこしあんだ。甘すぎず、きめ細かくて上品な味わい。嫌なことがあってもこの甘さがいつも私の心を癒してくれた。昔から変わらない優しい味だ。

あぁ、ほんと美味しい……食べるのがもったいないくらい美味しい。

頬が落ちるとはこのことだ。しっかり味わいながら最後のひとくちを食べ終わると、じっと私を見つめる黒川さんとふと目が合った。唇には薄く笑みを引いている。

「君は本当に美味しそうに食べるな」
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