授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
「びっくりすることもありますけど、それなりに楽しい毎日を送ってますよ」

「そう、ならよかった。黒川君もまだまだ若いし、こんな小さな事務所じゃなくてもっと大手の法律事務所でも十分やっていける腕はあるのになぁ、なんせ義理堅い男だから」

ずずっとお茶を啜り、坂田所長がはぁと息をつく。

黒川さんがここの事務所で仕事を続ける理由。それを尋ねようとしたときだった。

「松下検事は息災か?」

坂田所長が思わぬことを口にして、かける言葉が喉の奥で凍りついた。

「えっ……」

手元の湯呑から視線を跳ね上げると、坂田所長は私とは真逆に屈託のない笑顔を浮かべていた。笑ってその場を誤魔化す余裕もなく、私はただただ動揺するばかりだ。

ど、どうして坂田所長がお父さんのことを知ってるの? もしかして、鎌かけられてる? 

息を詰めて黙っていると、坂田所長は「やっぱりね」と口元を綻ばせた。

「その感じじゃ、黒川君に話してないね? 君の父上が検察庁の検事総長だってこと」

「……はい」

蚊の鳴くような小さな声で返事をしたのはいいけれど、坂田所長が父のことを知っている事実に二の句が継げなくなってしまった。

「なんで私がお父さんのことを知っているか、って顔だね? まぁ、長年この仕事をしていると検察側の顔ぶれもだいたいわかるし、なんせ清次郎とは大学の同級生なんだ。今は検事総長だなんて、ずいぶん偉くなっちまったけどなぁ」

「えっ!? ち、父と、同級生……?」
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