授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
ギョッとして、うっかり湯呑を落としそうになる。これ以上手元に持っていられなくて、トンとテーブルに湯呑を置いた。

坂田所長は私と会ったとき、たぶん“松下”っていう苗字になにかピンときたんだ。

「まさか、君が清次郎の娘さんだなんて予想外だったけど、なるほど……よく見ると目元なんかよく似ているね」

坂田所長と父が顔見知りだったなんて、こっちこそ予想外の展開だ。

「え、ええ……よく言われます。あ、あのっ」

「なんだい?」

坂田所長は至って落ち着き払っている。動揺しておろおろしているのは自分だけだ。みっともなくて少しは冷静になろうとするけれど、尻の座りが悪くて落ち着かない。

「黒川さんとのこと、坂田所長は反対……されてますか?」

「え? どうしてだい?」

私の言ったことが意外だったのか、坂田所長が不思議そうに目を瞬かせた。

「昔からうちの父は弁護士嫌いで弁護士もまた検事嫌いなんじゃないかって……だから――」

「反対だなんてとんでもない。君みたいなしっかりしたお嬢さんが彼を支えてくれる唯一の人だと思うと、むしろ嬉しいよ。それに私は別に検事が嫌いというわけでもないし」

思いも寄らぬその反応に、えっ、と短い声が出たまま言葉が出なくなった。固まる私を見てクスリと笑う。
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